ドグラマグラ / 夢野久作 / 角川文庫
「この小説を読んだ人は精神に異常をきたす」などと言われたり、日本探偵小説三大奇書の1つと言われたりしているようですが、実際に読んでみると個人的にはそこまで意味不明な小説とは思いませんでした。
いわゆる推理小説にジャンル分けされるタイプの話ではありますが、むしろ作者の夢野久作の心象風景や思想が表現されている、という意味では私小説のようにも感じ、とても感動しました…。
文中では
「脳は物を考える所ではなく情報を交換する器官に過ぎない、人間はむしろ体中の細胞の記憶により行動している」
というような主張が何度か繰り返され、小説もそのコンセプトに沿って進んでいきます。
「初めて来た場所なのになんとなく見覚えがある」
「初めて触ったはずのピアノが最初からなぜか簡単に演奏できた」
などの経験がある人にとっては結構納得のいく思想なのではないかと思います。
「必ずしも脳での働きが人間の行動の全てではないよな…」と考えさせられる作品。
主人公は大学病院精神病科の独房に閉じ込められている記憶喪失中の少年で、自分が誰なのかを探っていくストーリーです。
記憶喪失というのは「自分が誰だかわからない」という事でもあり、それはつまり「自分の親が誰だかわからない」という事でもあります。
それは更に「親の愛情がはっきりと感じられない」と言い換える事もできます。
かなり風変わりだった夢野久作の父親の事も併せて調べながらこの小説を読んでもらえると、作者がこの小説を書いた理由が伝わってきて、より感動が増すと思います。
2ヶ月 / 上巻:286ページ、下巻:382ページ
1. 古い日本文学に興味がある人
2. 自分の親や家族とうまくいってない人
3. 非現実的な世界観に浸るのが好きな人